book review 『自由な学校を出て思うことは?』

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今年の2月に手に入れていた「まっくろくろすけ」の卒業生の本、やっとゆっくり読んで、book reviewします!
『自由な学校を出て思うことは?』

20年以上の歴史がある、日本で最初のデモクラティックスクール、まっくろくろすけ。
この本は、まっくろくろすけを経て社会に出た二人の若者が、その点を共有する5人に依頼して行ったインタビューをまとめたもの。

自分たちも含めて7人分の、社会に出てみて「思うこと」、そこに、自由な学校での経験の影響がどう働いているのかを、知ろうとする著者二人の探求の旅。私にとっては、読みごたえがあり自分の考えにも豊かさと深さを与えてくれる本だった。
教育の問題に関心のある人だけでなく、彼らと同年代の若い人が読んだら面白いだろうなと思う。

タイトルに、まずとても大事なことがあらわれていると思う。何をしているか、ではなくて、『思うこと』

ぶっちゃけいうと、
理解者が社会に多いとは言えないデモクラティックスクールを細々運営していると、こうした学校を出た場合も、社会(日本社会に限らないけど、少なくとも日本社会でも)に出て問題なくやっていける、という実証を、聞きたいとか伝えたいという気持ちが自分の中にやっぱりある。

そのときにもっともわかりやすいと思われるのが、何を「思っているか」ではなくて、「どんな進路をとり何の仕事を今しているか」だ。自分の中にそういう部分を拾おうとする気持ちが少なからずあったことを、本を読み進めるうちに気が付いた。
ちょっと恥ずかしくなった。

この本の目的は「デモクラティックスクールみたいな自由な学校を出ても、社会で大丈夫立派にやっていけますよ~(^^♪」という、答えを用意したメッセージを発することではなくて、自分たちが経験した教育の在り方を一つの切り口にして、そこから、自分について、社会について、疑問を持ったまま探求の旅に出ることに見えた。

出発点の疑問は、ある意味むしろ『大丈夫』の逆。

まっくろくろすけをでているがゆえに、社会に出てから戸惑うことや違和感がある。同じ違和感をほかの人ももっているのか、持っていたらそれをどのように思いどのように対処しているのか。

デモクラティックスクールであるまっくろくろすけでは、スタッフの大人も参加者の子どももスクールを構成するメンバーとして平等な発言権と議決権がある。
運営に関することやスクールのルールまで、力を持った人間によって何かが決まっていて、誰も何も言えないということはありえない。

日本の政治形態は一応民主主義、つまりデモクラティックカントリーなわけだけれど、
実際には、中高生が意義に疑問を持つ校則があったとして、それを変えようと思うと、ほとんど不可能と思えるような厚い壁が立ちはだかる。

同じように、社会に出ても、憲法では平等な権利が保障されているとはいえその場所その場所に上下関係が厳然とあり、『下』に当たるものからの意見が取り上げられること、さらにそれによって何かが変わることが、歓迎されてスムーズに起こる場所は少ない。

どんな意味でも上下がなくて、誰の意見も真剣に聞かれる環境で育った場合、それは、わかってはいてもかなりのカルチャーショックだと思う。

そこに生ずるモヤモヤを、だから何かがいいとかダメだとかいうわかりやすい答えに持っていくことをむしろ避けて、とても大事に扱い、より深く広く物事をみようとしている姿勢がこの本にはずっと貫かれている。

7人のデモクラティックスクールを経験して社会に出た若者の、インタビュー時点での「今」について、ラベルを貼らずに、ていねいなインタビューと、思うこと、がそのまま載せられている。

ひとりひとりのまっくろくろすけ歴やその後の学歴職歴が見出しにまとまっているなどということはない。プロの編集さんなんかがついたらそうされるところかもしれないけれど、そうじゃないところがこの本のいいところだと思った。

本当に何かを知ろうとすると、物事はそう単純にきれいな図式を描かない。そのかわり、追及する過程の中に実に多様で豊かな収穫がある。それは、そういうふうにものを見なければ得られない収穫。

彼らの出発点となった疑問にも、インタビューから何かクリアカットな結論が見いだされるわけではない。けれども、その疑問を持ち続けていることが、この7人分のインタビューとして実り、読者に多様なてがかりや刺激、学びをもたらすものになっている。

今現在デモクラティックスクールにいて、将来を考える10代の人が読むといろいろ実質的に参考になることがあるのだろうし、デモクラティックスクールに縁もゆかりもない人が読んでも、自分が知らず知らずのうちに社会の当たり前として意識に上らないことに意識が向いたり、物事を新しい視点からみることの助けになると思う。

結果としては、大勢の学歴と職歴を並べられるよりも、あるいは、デモクラティックスクールがよい教育であるという答えに導く内容になっているよりも、こういう学校の存在意義を確かに感じる本だった。私にとっては。

個人的に私がおもしろかったこと、感心したことをいくつか。

まず、まっくろくろすけのような長くやっているスクールでも、このスクールオンリーで育って社会に出ている人は現時点ではまだ少数派だということ。まっくろくろすけ、公教育、ホームスクール、フリースペース。

これらを、どこかの時点からは自分が理由を自覚して利用し、結果としてこれらの2つかそれ以上のクロスオーバーで成長して社会に出ているケースのほうが多いらしい。

本人の自覚的な選択で、リソースとして利用しているところが重要だと思う。それと、一個の教育機関を選んだら、それしかない、それしかなくなる、という話ではないことを教えてくれる。

教育機関も1つ利用ではない人が多いように、社会に出てからも、この会社/職業に就いて、現在も社員/職員です、以上、というパターンじゃない人のほうが多い。

とりあえずこれをやってみて、こういうことがわかったから次にこれをやってみて、今はここでこれをやっています、というふうに、社会に出てからも、自覚的な理由で進化形の過程を歩んでいる。3年後5年後にインタビューしたら、またちがうことが聞けるのだろう。

もうひとつ、私が心を打たれたのは、この著者の二人の、人の話を聞く姿勢。インタビューは、内容をきれいにまとめてしまわないで生のやりとりとして記録されている。「思うこと」だから、そのほうがリアルに伝わる。

インタビュアーが、大事なところで相手が語ったことに対してポンポン自分の側から何かを投げ返すのではなく、自分の理解があっているかをまずていねいに問い返し、それからさらに深く知ろうとする質問を投げていく様子がとても見事で、私はずいぶん学びになった。
インタビューを本にしようと思って、やり方を学んだから、ということももちろんあると思うけれど、相手と話し合って物事を解決してきた経験の積み重ねは大きいのではないかと思う。

こんなふうに人の話を聞くことのできる大人に、そんなにあったことがない。相手の話を聞くことのできない人で社会はあふれている。自分についてもその能力の未開発ぶりが身に染みている。

職歴や学歴も一つの情報だけど、それだけでは、
その人が、疑問を持ち続けている人間であるか、
物事を多角的に見れる人間であるか、
人の話が聞ける人間であるか、
ということは見えない。

上にあげたようなことが、社会に出てから、本人の力になり、周りの力になり、社会を良い方向に導く力になるものだと私は思っている。

公的な教育機関を出ていて、こういう力を備えた若者も何人も知っている。だから、デモクラティックスクールを出ているからこそ、よりこういう力がついているのだ!みたいに結論づけたいわけじゃない。そういう比較に意味はない。

でも確実に言えることは、この本に登場する若者たちにはみなそうした力が育っているということだ。それだけで、まっくろくろすけが、とてもよい教育機関だといえると私は思う。

『まっくろくろすけ』は日本におけるデモクラティックスクールの草分けで、20年の実践の歩みがあり今がある。

同じデモクラティックスクールを名乗っていても、自分たちはまだまだ歩み始めの学び段階、システムを採用しただけですぐ内容が充実するわけではない。

それでも、こういうよい本を読むと、続けていく勇気が出る。

今年の2月にもう一冊、福島から震災後に避難してまっくろくろすけに通うようになった人とそのおかあさんの共著が出版されていて、そちらもいろいろ胸を打たれる良い本だった。
たまたまこの本が先になったけど、そちらもそのうち、感想書きたいな~と思っています。
購入方法はこちらをご参照ください ~。

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